ほたるろぐ

仮面二浪なる悪事を企む限界大学二年生による日記のようなもの

うー!がおー!

 

 昨日は朝からまたいとこ(以下、セブンちゃん)に公園へと連れていかれた。畑に囲まれ曲がりくねった道を歩き、やけに流れの遅い川を越え、緩やかな坂を登ったところにその公園はある。私が小さい頃もよく遊んでいた公園で、とても懐かしい。

 

 セブンちゃんは虫が苦手である。すべり台が大好きだが、滑るところに虫がいるといって一度も滑らなかった。回るジャングルジムにも蜘蛛が巣をつくっていていよいよ心が折れたらしい。

 

「もうかえる!」

 

 とセブンちゃんは言った。帰り道にはたんぽぽが数え切れないほど咲いている空き地がある。今の時期だとちょうど、花と綿毛が半々といった具合である。

 

「あれをとって」

 

 セブンちゃんは空き地に足を踏み入れずとも手の届く位置にある綿毛を指差した。私はすっと取って差し上げた。

 

 それがはじまりでたぶん十個か二十個くらい綿毛を吹いた。そのうち近くのものは取り尽くして、随分と空き地に入り込んだ部分のものまで手を出した。何がきっかけかわからないが、ここでもまた突然帰りたがりはじめたので手をつないで帰路についた。虫か何かをうっかり触ってしまったのかもしれない。

 

 途中で向こうから下の子(以下、リンちゃん)を抱えたおじいちゃんがやってくるのが見えた。どことなく元気のなかったセブンちゃんだったが、

 

「ほら、リンちゃんとじーたんが来たよ」

 

 と知らせてやるとパッと顔を上げて駆け出した。

 

 家へ帰ってくると、なぜか私の昔の写真を叔母夫婦が閲覧していた。物置きと化している二階からアルバムが発掘されたらしい。私がちょうどセブンちゃんくらいの歳のころのアルバムに面白いものが挟まっていた。

 

 三枚の便箋に丁寧な字で文章が綴られていた。丸くて大きい、見慣れた筆跡だった。母のものだとすぐにわかった。

 

「ほたちゃんが好きな遊び」

 

 一枚目の一行目にはそう書いてあった。私を祖父母に預けるときに書き留めたものだと推測される。それによると私はトイストーリーが大好きだったようで毎日ビデオを見ていたのだとか。セブンちゃんもここ最近は毎日アナ雪を見るそうなので、このくらいの歳の子はみんなそうなのかもしれない。

 

「毎日同じものを見せられてこちらは気が狂いそう……」

 

 と文が続いていた。大変申し訳ない。お絵描きも好きだったようで、クレヨンを持ってきては母をつつき、

 

「白い紙を出せ」

 

 と要求したらしい。いつも紙が用意されるまで待ち、壁に描いたりはしない賢い子だと褒められていた。いつも怒られたり呆れられたりするばかりなので、ずいぶん昔のものとはいえ私を褒める言葉があることになんだか驚いてしまった。

 

 その後はいとこ一家が買い物に行くそうなので、私はまた図書館へ行った。グースパンプスシリーズはお気に入りだったが、実は未読の巻もあった。幼馴染の男の子と借し合って一巻から八巻までは読んだのだが残りの二巻は読めていなかった。シリーズではあるが別々の話なのでそれでも問題はなかったのである。

 

 二冊読む時間はなさそう。ここでは最終巻の「鳩時計が鳴く夜」を選んだ。ぜひ読んでほしいので内容は語らないが、このシリーズとしては珍しい終わり方をしていた。

 

 昔は祖父母の家から帰る日には帰りたくないと言って泣いたものだが、今はもう本当に来たければいつでも来れると知っているからかあまり寂しさはなかった。代わりに絶望感があった。現実へ帰らなければならないのが心底辛かった。

 

 仕事漬けで怒りっぽくいつも不機嫌な母。
 大量のレポートと課題。
 いない友達。
 どこに向けたらいいのかわからない虚無感。

 

 帰りたくない。帰りたいわけがない。

 

 好きだった本を読んで、かわいいいとこと遊んで、畑の野菜を食べて、そんな生活がずっと続けばいいのに。

 

 幸せな瞬間に死にたいと思う気持ちがとてもよくわかった。別に線路に飛び込もうとかそんなことは考えない。ただただこの瞬間に世界が跡形もなく消えてなくなればいいのにと願った。

 

 帰りの新幹線にはコンセントがなくて、スマホのバッテリーとの闘いとなった。バッテリーを気にする行為が現実に戻ってきた感を加速させ憂鬱さが増した。

 

 だけどもどうやら考え込んだり憂鬱になったりするのはキャラじゃないらしい。もっと、考えなしに行動して、馬鹿みたいに素直だったころは毎日楽しくてしょうがなかった。

 不意に、考えんのやめよ、と思った。

 受験するのかしないのかとか、院行くのか行かないのかとか、他にもいろいろ、難しいこと考えんのやめようと思った。

 

 たくさんのことを考えてひとつもできずにいるくらいなら、そのときそのときにやりたいことをやろう。中途半端で終わってもいいからとにかく何かやろう。

 

 だからまあ、そうだな。いまはドイツ語の勉強をしたいし、ずっと更新をご無沙汰していた小説の続きでも書きたい。あとは、あんスタの推しイベを走らないといけないし、ギター弾けるようになりたい。

 

 なんとか前向きで明るい気持ちになれたからここで終わる。明日になって、また現実辛いとか言い出してたらキャラじゃねえぞこのやろうって笑い飛ばしてやってほしい。

 

 それでは。